あなたの人生には、
まだ名前のない時間がある。 

夕暮れの改札を抜けるとき、
ふとポケットの中の
スマートフォンの軽さに気づく。

かつては、
絶え間なく鳴り響く通知と、
誰かの判断に応えることが、
存在の確かな手応えだった。

チームを率い、方向を示し、
誰かの決断の背中を押す。

頼られることの重みは、同時に、
自分がこの社会の確かな構成員である
という誇りでもあった。

けれど、
静かにその手綱を手放す日が訪れる。

手帳から埋まっていた予定が消え、
急いで向かうべき場所がなくなった朝。

自由を手に入れたはずなのに、
ふと足元が浮くような感覚に襲われる。

これからの私は、
一体何者なのだろう

答えを探すように立ち寄った本屋で、
言葉が押し寄せる。

「本当の自分を取り戻す」
「第二の人生の使命」
「自分軸で生きる」

どの表紙も、
まるで問い詰めてくるようだ。

「あなたは、何をする人ですか」

「あなたの価値は、何ですか」

積み重ねてきた実績や
キャリアという物差しを、
一度、横に置いたはずなのに。

また新たな「正解」や「定義」を
探そうとしている。

そんな自分にハッとして、
静かに本を閉じる。

もう、
自分の意味を考えること自体
少し疲れてしまった

ガラス窓の向こうで何かが揺れた。

何だったのかは、わからなかった。

けれども、
それまで考えていたことが、
ほんの少しだけ途切れた。

ずっと、

「何を与えるか」
「どう成果を出すか」

という世界の第一線で走ってきた。

その時間は、
決して失われるものではない。

ただ役割を
少しだけ横に置いたとき、

これまでとは違うものが
見えてくることがある。

何者であるかを
言葉にすることではなく、

目の前の世界を、
ただ受け取ってみること。

役割を果たしてきた人生を、
否定する必要はない。

これまでの自分を、
新しい何者かに作り替える必要もない。

ただ一度、

「役割があるから、私はここにいる」

という物差しを、
そっと横に置いてみる。

そのとき、何が残るのだろう。
そして、何が見えてくるのだろう。

役割の衣を、
置こうとしているあなたへ。

役割を手放したあとに、
何が残るのだろう。 

私たちは、
何かが起きると
すぐに意味を探します。

あなたの人生には、
まだ名前のない時間がある。

この時間は、
第二の人生の答えを探す
講座ではありません。

キャリアを設計する場でも、
「本当の自分」を見つけるための
コーチングでもありません。

これまでとは少し違う場所から、
自分と世界を眺めてみる。

言葉で自分を定義することから、
一度、離れてみる。

そして、
まだ名前のついていない感覚を、
そのまま受け取ってみる。
そんな時間です。

Speakers

大城京子

東京美学倶楽部 上席研究員
株式会社ベターパートナーシップ 代表取締役
人材開発コンサルタント、研修講師、システムコーチ

女性のキャリアや人材育成に長く携わり、これまで多くの女性の「次の一歩」に伴走。

その中で、「がんばっているのに、なぜか前に進めない」「自分が弱いから、できないから」と自分を責めてしまう女性の多さに気づく。

「問題は本人ではなく、そもそもの前提にあるのではないか」

そんな問いを抱き、哲学・美学・文学などの人文知を探究している。

主宰

豊田ふみこ

真美文藝 主宰 
東京美学倶楽部 上席研究員
株式会社LuGEND 代表取締役

15年以上にわたり、経営者・起業家の思想や美意識を、装いや写真を通して、「その人を、どう見せるか」という仕事に携わる。

現在は、「人をどう見せるか」から、「その人には、世界がどう見えているのか」の探究へ。

哲学・美学・文学などの人文知を背景に、会員制コミュニティ「真美文藝」を主宰。

役割の先に、
何があるのか。

その答えを探しに来るのではなく、
その問いを抱えたまま、
少しだけ静かな場所へ。

ご一緒できれば幸いです。